エイズの治療に関しては、特効薬こそないものの、 治療薬の開発 は着実に進んでいる。 しかしこれが「開発された治療薬は誰のものか」という問題を提起している。 エイズが蔓延している国の多くは非常に 貧しい。 世界の人口の約半数は1日2ドル以下で暮らしているのが実情である。 ところが治療薬は患者一人当たり年間1万ドルもする。 これでは本当に治療薬を必要としている患者の手に入らない。 治療薬の価格が高いのは特許による保護があるからである。 すなわち製造自体に経費がかかり高いのではなく、 開発にかかった経費を上乗せしているから高価なのである。
インドの製薬会社シプラ社 は特許料を払うことなくコピー薬を製造し、 インド国内で安い価格で販売している。 さらに患者一人当たり年間350ドルで NGO「国境なき医師団」に提供すると申し出た。 ちなみにインドでは当時、 医薬品に対する特許保護の制度が整備されていなかった。 したがってシプラ社のこの行為はインド国内においては違法ではない。 この問題をきちんと理解するためには 特許権に関する基礎知識 が必要である。 それはある程度持っているという前提でさらに話を進める。 なお、 シプラ社に対抗して大手製薬会社は価格をシプラ社並みに引き下げた。 これは必ずしも美談ではない。
特許というものは国ごとに与えられるものであるが、 公正な貿易を守るためにはそこに国際的なルールも必要である。 それをWTOが加盟国向けに定めたのが TRIPs協定 (Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights) である。 2003年8月、WTOは 次 の決定をした。 そこに至るまでにはエイズ治療薬をめぐる激しい南北対立があったが、 先進国が大幅に譲歩する形の決着であった。 それまでのルールでは、ある国において 強制実施権 によりコピー薬の製造が認められたときも、 その輸出は原則禁止であった。 新しいルールによると
新しいルールは貧しい人々へ「生きる」という
最低限の権利を認めようとするもので、
歓迎すべきものであることは間違いない。
ただこの問題はそう単純ではない。
製薬会社がリスクを犯して新薬の開発に努力するのは、
特許料などによる見返りが期待できるからである。
見返りが期待できないとなると、
製薬会社もリスクを犯してまで新薬を開発しようとはしなくなる。
そうなった場合一番困るのは、
まさにエイズで苦しんでいる患者自身である。
いたずらに大手製薬会社を非難し、
特許制度自体を破壊してしまってはならない。
必要なのは大部分の人が納得できるルールであり、
またそれをきちんと守っていくことである。
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