組織による警笛鳴らし奨励

企業が警笛鳴らしを奨励するわけがないと考えているとしたら大きな間違いである。 確かに企業の目的は利潤追求である。 それだけではないと言いたいところだが、利潤追求の観点からも警笛鳴らしは奨励され るべきなのである。 すなわち倫理は儲かるのである。

エーザイの例


製薬会社エーザイは2000年4月、法の遵守プログラム−コンプライアンス・プログラム を始めた。 その前年の9月、欧州や日本の複数企業の販売方法が反トラスト法に抵触するというこ とで、エーザイは米国司法省と司法取引を行うこととなった。 結果として4000万ドルの罰金や和解金で減益を余儀なくされた上、ブランドイメージも 傷つけられた。 1995年から独禁法違反をしないために遵法・倫理研修を強化していた中での出来事であ る。 問題は「世界のルールへの無知」にある。 生産量の情報交換もトラスト法に触れるということを担当者は知らず、この事態を招い ている。 エーザイは社員の意識改革を図った。 その結果がこのコンプライアンス・プログラムである。
エーザイは行動憲章を定めた。 社員教育用にハンドブックも作った。 社員一人ひとりの意識向上を目指すだけでなく、サポート体制の強化にも努めた。 「もしかしたら不正を犯しているのではないか」と疑問を感じたとき相談する窓口の設 置である。 相談内容は企業倫理推進部のメンバー以外は社長といえども知りえないシステムである 。 解決方法も相談者の意向を尊重する。 「上司の判断を仰ぐ」という案に相談者が反対なら決してそれを無理強いしない。 また、物事を丸く収めることは絶対しない方針である。 現在、月に5〜60件の利用があるという。
「自分自身の行動だけでなく、同僚などのコンプライアンス状況にも注意せよ」という ことは、通報制度ではないかとの批判もあったという。 しかしそうではないということの理解も得られつつある。 なお、エーザイでは報奨金制度などは考えていないという。
参考文献:出口宣夫、事件の衝撃から生まれた「倫理ハンドブック」−社員に 問う、家族に胸を張って話せるか、中央公論2002年6月号、 特集 内部告発−正義か密告か


企業としては、内部改革の努力の猶予も与えられないまま、 外部に告発されては企業イメージも傷つき大きな損害となる。 気づいていないことについて直接指摘してもらえないまま、 外部の力を借りて改革を迫られたのでは、しこりが残るのも当然だろう。 したがって緊急事態でない限りは、内部告発に踏切る前にまずは内部改革すべく 権限のある者への働きかけ等をすべきである。
ここで考えなければならないのが、その組織には 「内部改革を訴えることのできる体制が整備されているか」どうかである。 自分のことならともかく、周りのものの遵法状況に問題があると気づいた場合、 これをどうするかは非常に悩ましい。 直接指摘して直してもらえる場合はいい。 そんなことをしたら逆恨みされて大変なことになる場合だってあろう。 この点、エーザイのような制度があれば、 直接本人に指摘しにくい場合でも問題解決にもっていける。
現在多くの企業において、生産を担当している部門とは独立に 「品質保証部」とか「品質保証室」をおき、品質保証に努力している。 これと同じように「倫理推進部」とか「倫理推進室」を設置し、 企業倫理の確立に一層の努力をすべきではないか。
これは中村収三大阪大学名誉教授の受け売りである。 中村氏の主張では、そのような制度を整備した企業には しかるべき団体が認定証を発行することも有意義であるという。 傾聴に値する意見である。 ただ、担当役員を一人置いて、形だけ取り繕う企業をどう見抜くかなど、 検討しなければならない課題もある。 「企業の自主努力に期待したい」というのでは甘すぎるとつくづく感じる 今日このごろである。

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