技術者倫理の必要性
共通倫理(common morality)とは別に専門職倫理が必要なことは、
弁護士や医者の場合には分かりやすい。
弁護士は場合によっては自らの良心に逆らっても、その職務を遂行しなければならない。
たとえば依頼者が有罪だと信じたからといって、その弁護をやめることはできない。
医学の分野では生命倫理がいま大きな問題となっており、
それを議論する学会もある。
そうでなくても医者はインフォームドコンセント、安楽死問題、等々、
共通倫理とは別に考えねばならない専門職としての倫理問題を抱えている。
では技術者はどうであろうか。
技術者は多くの場合、組織に雇われて仕事をしている。
そして個人として倫理問題を意識する機会はまれなのが普通である。
組織が問題を起こすとしたら、その責任は主として経営者にあり、
問われるべきは組織の倫理か経営者の倫理であって雇われ人の倫理では
ないようにも思われる。
しかし技術が作り出したものが、我々の日常生活に大きな影響を与えていること、
技術とそれによる製造物との関係をきちんと把握できるのは経営者ではなく
技術者であること、を忘れてはならない。
技術が災害を引き起こすことを防止できるのはやはり技術者なのである。
最近マスコミを賑わせている多くの事故を技術者は防止できたはずである。
そして裁判所も事故を防止しなかった技術者に厳しい判断をしている。
技術者としては、「経営者が資金や時間をくれなかったことのほうに
より大きな責任がある」
と言いたいところだろうが、それは通らなくなっている。
少なくとも技術者の責任は経営者の責任と同程度には重いとされ、
時には経営者は責任をとらず技術者だけが責任をとらされる。
「とかげの尻尾切り」だと同情されても何の意味もない。
今まさに技術者は倫理問題を意識しなければならない。
技術者の倫理は基本的には共通倫理と矛盾するものではない。
しかし「組織の論理」
「経営の論理」と時には対立する。
日本の場合、技術者の倫理は米国などに比べ大きく遅れている。
技術者の倫理が違和感なく語られるようになれば、
それが組織の論理、経営の論理と対立したときにも
技術者は自信をもって戦える。
また、戦う技術者を支援する制度も育ってくる。
組織内で指導的地位にいる技術者であるなら、
組織に「技術者が倫理を守りやすい」制度を作ることも可能なはずである。
そのような制度があれば、技術者が戦う必要もない。
もちろん、技術者が組織と戦う必要のない制度ができたほうが、
戦いを支援する制度を使わざるを得ないよりずっと良い。
技術者が高いモラル意識をもつとき、事故のいくつかは未然に防止されよう。
モラルだけで事故が防止できるなどと極論するつもりは毛頭ない。
だが、モラルも必要なことは間違いない。
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