カネミ油症患者のその後に触れた新聞

朝日新聞 1998年6月18日 木曜日

見えない汚染 ダイオキシン

ニキビの芯のようだった。

福岡県添田町。 紙野トシエさん(79)が夫(85) の眉間の毛穴を親指のつめで押すと、 白いウミが飛び出す。

トシエさんも前日、一時間かけて娘に背中のウミを取ってもらった。 時にかゆくて、たまらなくなる。

「あれから、三十年もたつのにねえ」

夫婦はカネミ油症患者だ。 1968年、全身に吹き出物ができ、手足がしびれる奇病が西日本で発生した。 北九州市のカネミ倉庫が製造した米ぬか油が原因だった。 ポリ塩化ビフェニール(PCB)が混入していたのだ。

その後、原因物質がPCBに含まれるポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)と、 コプラナーPCBだったことが判明した。

世界では、PCDFに加え、 コプラナーPCBもダイオキシン類に含めるのが普通だ。 だが、厚生省も環境庁も、データが少ないことなどを理由に 「ダイオキシン類ではない」と言い続けてきた。

コプラナーPCBはダイオキシンと構造が近く、 PCBによる汚染に伴って日本に広がった。 これが含まれるとなると、 日本のダイオキシン類の総量は三割方はね上がると推計されている。

先月、世界保健期間(WHO)の専門家会合で、 この物質をダイオキシン類に含めることが正式に決まった。 両省庁は突然、「ダイオキシン類と見なす」と言い始めた。

体内に蓄積したダイオキシン類は、トシエさんの体を変えた。 エビやカニを食べると卒倒する。 ちょっと硬い食べ物だと、のどや舌がはれる。

国が何と呼ぼうと、「毒は毒や」と、トシエさんは言う。

「人間の浅知恵でつくったもので、人間はまた侵されてしまいようけん」

以下省略

カネミ油症事件のその後については こちらの記事も読んでください。

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