国内最大の食品公害「カネミ油症」の患者救済を求める声が、1968年の発生から38年を経て再び高まっている。 患者や支援者約<150人は24日、東京で集会を開き、原因企業による補償が貧弱で、 国の取り組みも足りない」として公的な救済を訴える。 同じ食品公害の水俣病や森永ヒ素ミルク事件との比較を通じて、立ち遅れているカネミ患者救済の現状を追った。 (野崎健太、外尾誠)
「1人たった23万円じゃ、何にもならん」
04年に油症患者と認定された長崎県五島市・奈留島の古木武次さん(76)は、カネミ倉庫からの見舞金の額にため息をつく。 妻のハルエさん(75)も05年に認定された。 夫婦と息子5人の医療費に、島外の病院に通った交通費を合わせると、 「認定までの35年で1千万円は超える」と思うからだ。
最高裁で87年に一括和解した訴訟の原告は、PCBの製造企業カネカからの和解金などで最低300万円を受け取った。 だが、古木さんら和解後に認定された四十数人が得たのは、見舞金と、カネミ側が支給する医療費や交通費だけだ。
その上、医療費の対象はカネミ側が「油症に関する治療」と認めたものに限られる。 多くの患者が訴える関節痛は「関係ない」として対象外だ。 医療機関での受診では、カネミが患者に「油症患者受療券」を発行し、 窓口で示すと自己負担分が免除される仕組みだが、周知徹底も不十分で、窓口でトラブルになるケースも少なくない。
自民・公明の与党両党は今年5月、公的救済を検討するプロジェクトチーム(PT)を設置した。 6月までに会合を3回開き、患者やカネミ倉庫、厚生労働省や環境省などの担当者から意見を聞いたが、 通常国会の会期切れと前後して活動を休止している。 メンバーの間には「原因企業が補償するべきだ」との原則論もある。
水俣病の認定患者は訴訟やチッソとの自主交渉を通じて、 最大1800万円の慰謝料などを含む補償協定を結んだ(73年)。 前提となる患者認定は、公害健康被害補償法に基づく。 明確な法的根拠がないカネミ油症の患者認定と決定的に違う点だ。 公健法は、認定申請を却下された人に異議申し立ての権利も認めている。 さらに95年の政治決着で、1万人以上の未認定患者が一時金260万円を受け取った。
森永ヒ素ミルク事件の場合は国が仲介して、 被害者と森永乳業、国が「三者会談確認書」を交わし、補償内容を決めた(73年)。 被害者が乳児という事情から、生涯必要なケアを受けられることに重点が置かれた。
慰謝料がない代わりに、生活手当や介護料を支払い、 職業訓練や一人暮らしなどのための「自立支援奨励金」も支給される。 対象は、食品衛生法に基づく調査で患者と診断されたすべての被害者と、 それ以降に被害を届け出て患者と認められた人たちだ。
水俣病もヒ素ミルク事件も、原因企業による補償が基本だ。 一方、カネミ側は「経営が厳しい中、医療費の支給を優先させる」として、和解金の支払いを凍結している。
被害者支援に取り組む保田行雄弁護士によると、同社の不払い総額は利子を含めて約200億円にのぼるとみられる。
行政の責任を問う声もある。原因食品の回収命令を出さずに被害を拡大させたうえ、 患者の把握を九州大の油症研究班に任せたことで、法的根拠があいまいな認定制度を生んだからだ。 津田敏秀・岡山大大学院教授(疫学)は 「行政は食中毒事件の調査・報告を義務づけた食品衛生法上の責任を果たしていない」と指摘している。
| カネミ油症 | 水俣病 | 森永ヒ素ミルク事件 | ||
| 発生時期 | 1968年 | 1956年(公式確認) | 1955年 | |
| 認定患者数 | 1892人 | 2265人 | 1万3422人 | |
| 原因企業 | カネミ倉庫 | チッソ | 森永乳業 | |
| 原因物質 | PCBとPCDF | 有機水銀 | ヒ素 | |
| 補償の根拠 | 最高裁での和解 (87年) |
チッソとの補償協定 (73年) |
三者会談確認書 (73年) |
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| 原 因 企 業 に よ る 補 償 |
慰謝料 | ・見舞金23万円 和解金500万円は経営難を理由に支払われていない |
・慰謝料 1600万〜1800万円 ・近親者慰謝料 100万〜600万円 |
なし |
| 医療費 | 油症による受診の自己負担分と交通費 | 水俣病による受診の全額 | すべての受診の自己負担分と交通費 | |
| 生活手当・介護費など | なし | ・終身特別調整手当 6万7000〜17万円 ・介護費 4万6700円 ・療養手当・葬祭料など |
・生活手当 5万7642〜7万4192円 ・調整手当 2万8200〜7万200円 ・介護料 5万400〜8万4000円 ・健康管理費 1万〜2万円 ・職業訓練などへの奨励金 |
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| その他の補償 | PCBの製造企業カネカから原告への和解金300万円 | 95年の政治決着による一時金260万円と医療費・療養手当 | なし | |