カネミ補償のその後を伝える新聞

朝日新聞 2006年9月24日 日曜日 朝刊

カネミ油症「補償貧弱」

公的救済訴えきょう集会

国内最大の食品公害「カネミ油症」の患者救済を求める声が、1968年の発生から38年を経て再び高まっている。 患者や支援者約<150人は24日、東京で集会を開き、原因企業による補償が貧弱で、 国の取り組みも足りない」として公的な救済を訴える。 同じ食品公害の水俣病や森永ヒ素ミルク事件との比較を通じて、立ち遅れているカネミ患者救済の現状を追った。 (野崎健太、外尾誠)

「1人たった23万円じゃ、何にもならん」

04年に油症患者と認定された長崎県五島市・奈留島の古木武次さん(76)は、カネミ倉庫からの見舞金の額にため息をつく。 妻のハルエさん(75)も05年に認定された。 夫婦と息子5人の医療費に、島外の病院に通った交通費を合わせると、 「認定までの35年で1千万円は超える」と思うからだ。

最高裁で87年に一括和解した訴訟の原告は、PCBの製造企業カネカからの和解金などで最低300万円を受け取った。 だが、古木さんら和解後に認定された四十数人が得たのは、見舞金と、カネミ側が支給する医療費や交通費だけだ。

その上、医療費の対象はカネミ側が「油症に関する治療」と認めたものに限られる。 多くの患者が訴える関節痛は「関係ない」として対象外だ。 医療機関での受診では、カネミが患者に「油症患者受療券」を発行し、 窓口で示すと自己負担分が免除される仕組みだが、周知徹底も不十分で、窓口でトラブルになるケースも少なくない。

自民・公明の与党両党は今年5月、公的救済を検討するプロジェクトチーム(PT)を設置した。 6月までに会合を3回開き、患者やカネミ倉庫、厚生労働省や環境省などの担当者から意見を聞いたが、 通常国会の会期切れと前後して活動を休止している。 メンバーの間には「原因企業が補償するべきだ」との原則論もある。

和解金不払い200億円

水俣病の認定患者は訴訟やチッソとの自主交渉を通じて、 最大1800万円の慰謝料などを含む補償協定を結んだ(73年)。 前提となる患者認定は、公害健康被害補償法に基づく。 明確な法的根拠がないカネミ油症の患者認定と決定的に違う点だ。 公健法は、認定申請を却下された人に異議申し立ての権利も認めている。 さらに95年の政治決着で、1万人以上の未認定患者が一時金260万円を受け取った。

森永ヒ素ミルク事件の場合は国が仲介して、 被害者と森永乳業、国が「三者会談確認書」を交わし、補償内容を決めた(73年)。 被害者が乳児という事情から、生涯必要なケアを受けられることに重点が置かれた。

慰謝料がない代わりに、生活手当や介護料を支払い、 職業訓練や一人暮らしなどのための「自立支援奨励金」も支給される。 対象は、食品衛生法に基づく調査で患者と診断されたすべての被害者と、 それ以降に被害を届け出て患者と認められた人たちだ。

水俣病もヒ素ミルク事件も、原因企業による補償が基本だ。 一方、カネミ側は「経営が厳しい中、医療費の支給を優先させる」として、和解金の支払いを凍結している。

被害者支援に取り組む保田行雄弁護士によると、同社の不払い総額は利子を含めて約200億円にのぼるとみられる。

行政の責任を問う声もある。原因食品の回収命令を出さずに被害を拡大させたうえ、 患者の把握を九州大の油症研究班に任せたことで、法的根拠があいまいな認定制度を生んだからだ。 津田敏秀・岡山大大学院教授(疫学)は 「行政は食中毒事件の調査・報告を義務づけた食品衛生法上の責任を果たしていない」と指摘している。

カネミ油症・水俣病・森永ヒ素ミルク事件の被害者への補償


カネミ油症 水俣病 森永ヒ素ミルク事件
発生時期 1968年 1956年(公式確認) 1955年
認定患者数 1892人 2265人 1万3422人
原因企業 カネミ倉庫 チッソ 森永乳業
原因物質 PCBとPCDF 有機水銀 ヒ素
補償の根拠 最高裁での和解
(87年)
チッソとの補償協定
(73年)
三者会談確認書
(73年)








慰謝料 ・見舞金23万円
和解金500万円は経営難を理由に支払われていない
・慰謝料
 1600万〜1800万円
・近親者慰謝料
 100万〜600万円
なし
医療費 油症による受診の自己負担分と交通費 水俣病による受診の全額 すべての受診の自己負担分と交通費
生活手当・介護費など なし ・終身特別調整手当
 6万7000〜17万円
・介護費 4万6700円
・療養手当・葬祭料など
・生活手当
 5万7642〜7万4192円
・調整手当
 2万8200〜7万200円
・介護料
 5万400〜8万4000円
・健康管理費
 1万〜2万円
・職業訓練などへの奨励金
その他の補償 PCBの製造企業カネカから原告への和解金300万円 95年の政治決着による一時金260万円と医療費・療養手当 なし
(いずれも05年12月現在。生活手当・介護費などは月額)


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