業界の闇カルテルを内部告発し、 会社から差別的扱いを受けてきた串岡弘昭さん(58)が勝訴した。 流れは、変わりつつある。
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裁判長が読む判決文を聞きながら、 串岡弘昭さんは「そうだ」「その通り」とうなずいていた。
不当な配転、退職の強要、暴力団の関与、賃金差別……。
渾身の思いで主張した事実が、つぎつぎと認定された。
4年前、富山地裁に訴えを起こした時は、涙が止まらなかった。 会社への怒りがこみ上げ感情を抑えられなかったが、今度は不思議と冷静だった。 「裁判ですべて話した。 裁判官も分かってくれたはずだ」。 そう信じていた。
入社4年目、トラック業界の闇カルテルを、 職場であるトナミ運輸(本社・富山県高岡市)で問題にした。 相手にされず、思いあまって新聞社や公正取引委員会に訴えたところ、 「会社を辞めろ」と迫られ、拒否すると研修所に配転。
「被告は、原告が内部告発したことを理由に、 これに対する報復として昭和50年10月以降、 ほとんど雑務しか仕事を与えず、昇格を停止し、不利益な取り扱いをしている」 「原告の内部告発は、正当な行為であって法的保護に値する」
判決は明快に言い切った。
トナミ運輸は、衆議院議長を務めた綿貫民輔議員が社長・会長を務めたこともある 富山最大の運送会社。 逆らった串岡さんは「変わり者」「無謀」と地元では見られ続けた。 30年前は「内部告発」という言葉さえなく、「密告」「タレコミ」と言われ、 屈辱に耐えながらやっと会社を追いつめた。
「全国の人に勇気を与える判決だと思います」
興奮を抑えながら記者会見で述べた。 産業社会のあちこちで不祥事が噴き出している。 企業の大小を問わずサラリーマンの多くが「不法行為」と隣り合わせで仕事をする。 「こんなことはイヤだけど訴え出たら、不利益にさらされる」 と悶々としているサラリーマンに判決は勇気を与える、という。
実は、和解の調停で 「和解すればほぼ満額取れるが、判決になればかなり減額される」 という感触を得た。 でも判決にこだわったのは、裁判所が自分の行為を「正当」と認めれば、 30年間の戦いが新しい歴史を作ると考えたからだ。
トナミ運輸は判決を不服として高裁で争う構えだが、 これを機に社内に内部通報の制度を設けるという。 「世間の目は厳しいので」と経営企画室の部長はいう。
「押さえ込もうとすれば、会社も傷つくことを示した判決だ」
内部告発の法制化に取り組んできた国廣正弁護士はそう指摘する。 判決の精神は、来年4月から施行される公益通報者保護法にほぼ沿っている、 と次のようにいう。
判決は (1)串岡さんは社内でトラック料金の仕組みがおかしいと訴えた (2)内部で十分に問題提起をしたとはいえないが、 会社ぐるみで闇カルテルを行っていたことを考えれば無理からぬこと (3)外部に訴え出たことには正当性がある (4)社の差別的扱いは不当、という論理で、不法行為はまず社内で訴え出て、 効果のないときは外部に通報されても仕方ない、 とする公益通報者保護法の仕組みと一致する、 というのだ。
判決の翌日、 愛媛県警の裏金作りを内部告発した仙波敏郎巡査部長から串岡さんに電話があった。
「励みになる判決です」
鉄道警察隊に勤務していた仙波さんは告発の直後、通信司令室に配転になり、 拳銃も「上司が保管する」と取り上げられた。 通信司令室は110番の受付や緊急配備をする部署だが、 仙波さんは通信業務からも外されている。
「人事は適材適所で行った」と県警の警務課ではいうが、仙波さんは、 「通信司令室の勤務経験はなく、仕事らしい仕事も与えられていない」 と愛媛県の人事委員会に不当配転だ、と訴えを起こした。
だが、「ありがたいことに全国から励ましがあり、私は孤立していない」。 松山高校時代の同級生ら200人が「支援する会」も立ち上げた。
北海道警の裏金を証言した元釧路方面本部長の原田宏二氏も 仙波さんの応援に駆けつけた。
「わたしが現役のころ告白していたら、今日ほどの広がりがあっただろうか」
とつぶやくように語ったという。
(編集委員・山田厚史)
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