特許について定める法律は 特許法 である。 204もの条文からなるこの法律の解説をここでする気はない。 自分で特許を出願したいと思っている人はここではなく、たとえば ここのページ を見ていただきたい。 ここでは エイズ治療薬は誰のものか? を考えるために必要な基礎知識だけを解説する。
第一に、日本で取得した特許は日本でしか通用しない。 世界特許などは存在しないので、外国でも権利を主張したいなら それぞれの国で特許をとる必要がある。 ところでほとんどの国では特許について 先願主義 (早く出願した人に特許を与える制度) を採用している。 したがって、世界中で権利を確保したいとなると 同時に世界中に特許を出願しなければならないことになる。 これは大変なので、それを少しは緩和するためにできたのが PCT (特許協力条約)である。 このPCTに基づいて特許を出願すると、 書類中で指定した国すべてでその日に出願したものとみなされる。 ただしそれだけでそれらの国から特許権が与えられるのではない。 特許を得るためにはその国の特許庁にその国の言語で出願する必要があり、 あくまでPCTは優先権を主張するための利便を与えているに過ぎない。
第二に、特許では
強制実施権というものが規定されていることを
知る必要がある。
特許の実施権には「専用実施権」と「通常実施権」とがある。
専用実施権とは要するに独占権であり、
他者の使用を拒否できる権利である。
特許権者といえども他人に専用実施権を渡したときは
その専用実施権を犯すことはできない。
これに対し通常実施権とは他者に文句を言われずに使用する権利である。
すなわち多くの場合は専用実施権を持つ者が
特許料を払うという条件でその他の者に通常実施権を許諾するわけである。
ここにいくつかの例外がある。
特許法83条では特許権者や専用実施権者が特許を長く実施しなかったとき、
また
特許法92条では「他人の発明を利用した発明」をした者のために、
特許権者や専用実施権者と「協議する権利」を認めている。
さらに
「協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、
その特許発明の実施をしようとする者は、
特許庁長官の裁定を請求することができる。」
となっている。
もちろん裁定で決まる特許料は支払わねばならないが、
特許権者や専用実施権者の意思に反して他者が通常実施権を得る
場合があるのである。
このようにして与えられる通常実施権を強制実施権という。
そして93条がある。
そこには
「特許発明の実施が公共の利益のため特に必要であるときは、
その特許発明の実施をしようとする者は、・・・
協議を求めることができる。
協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、
その特許発明の実施をしようとする者は、
経済産業大臣の裁定を請求することができる。」
と書かれている。
「公共の利益」のためには、特許権者や専用実施権者の意思に反しても
他者に通常実施権を強制的に与えることができるようになっているのである。
なお、我が国ではこれまで裁定による強制実施権が付与された例はない。
これはそうなる前に協議が成立するからである。
現在のインドの法律では、食べ物や健康に関する事項の特許は禁止されている。 それを「知的財産権の保護が遅れている」と非難することは本当に正しいのか 考えてみる必要がある。
エイズのコピー薬はインドの会社が製造して他国に輸出しようとした。 これに関連して、並行輸入に対する特許権の限界についても説明しておく。 ある装置の日米両国での特許権を保有しているA社が 米国においてある製品を販売した。 そこで米国のB社経由であなたがそれを買って輸入したとする。 正規の輸入ルートはA社の代理店経由であるところ、 それ以外のルートでの輸入であるので、これを並行輸入という。 この場合、あなたはA社の特許権を侵害したことになるのだろうか。 それはA社とB社の契約次第である。 A社がB社に装置を販売したときに 「日本での販売、使用を認めない」旨をきちんと合意できていない限り、 特許権侵害にはあたらないとされている。
では、あなたがインドの会社からエイズのコピー薬を買うことは合法なのか。
特許法68条には次のように規定されている。
「特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。」
「業」としての「特許発明」の「実施」とはなんともわかりにくい法律表現であるが、
要するにコピー薬の日本への輸入という行為は
「特許発明の実施」と解釈されるので、
日本において特許権が設定されている限りこれは
明確に違法行為である。
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