事例「不正な入札」の分析 その2
「不正な入札」の事例を例にとって、
モラル診断をしてみよう。
行為功利主義テストを適用するとどうなるか。
中田室長の提案する「こっそり他社の入札条件を教える」という行為が
どれだけの功利を生み出すか、冷静に判断しなければならない。
この場合の「功利」とは試作室のメンバーの功利だけでなく、
入札する業者やMK製作所の従業員全員、さらには地域社会の構成員
までもの功利を合わせて考慮しなければならない。
試作室の仕事が増え利益があがることで、
一見するとMK製作所全体の利益が増加するように思われる。
しかしその分、他社の仕事は減り、利益が減少する。
もし試作室でその仕事を受注することが本当に最適な条件にあるのなら、
MK製作所の利益の増加が他者の利益の減少を上回ることになろう。
その可能性をまったく否定するものではない。
だが、こっそり他社の入札条件を聞き出してしまっては、
その可能性を証明する機会を放棄したことになる。
そうした上で「MK製作所の利益の増加が他者の利益の減少を上回る」と
主張することは無理がある。
次に行為功利主義テストではなく規則功利主義テストを適用してみよう。
行為功利主義テストで問題となるのは、
「今回だけは教えてくれ」という中田室長の主張通り、
今回「教える」ということの功利が問題となる。
一方、規則功利主義テストではより一般化して、
このようなとき「社内だから原則として教えるのが良い」と
するときの功利が検討対象となる。
こちらのほうが問題点をよりはっきりさせる。
このような原則があれば他社は入札してこなくなるだろう。
MK製作所の仕事はたしかに増えるかもしれない。
しかしそのコストが他社に任した場合より低い保証はまったくない。
合理化努力はなくなり、MK製作所だけをとっても功利は減少するであろう。
この問題について費用−受益分析を行なうに足るだけのデータを
すぐに揃えることは難しい。
しかし適切な努力をすればこの問題の数学モデル化も可能である。
その数学モデルは、中田室長の行為を善とはみなさないはずである。
功利主義テストでなく個人尊重主義テストを用いたほうが
問題点はよりはっきりする。
内部からの競争者がいる場合、その競争者に情報が漏れ、
不公正な競争になっていることを容認できるであろうか。
あらかじめ知らされているのであればまだましであるが。
内部からの競争者がいる場合、不公正な競争となるのが一般化したとしよう。
だとすれば社外からの入札参加者はいなくなってしまうだろう。
MK製作所は高いコストを我慢しながら試作室に受注せざるを得なくなる。
MK製作所の競争力は低下し、その製品は売れなくなるだろう。
結果としてMK製作所の従業員全員が被害にあうのである。
権利テストに照らすなら、
「こっそり他社の入札条件を教える」という行為は
他社の「だまされない」権利を侵害している。
容認できないことは明らかである。
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